
「今のアパートを退去するとき、自己破産しても退去費用は払わなければいけない?」「家賃を滞納していて自己破産した場合、家から追い出される?」「自己破産後に高額な退去費用を請求されたらどうしよう…」
自己破産を検討している人の中には、こうした不安を抱えている人も多いと思います。
自己破産をすれば借金の返済は免除されますが、手続き開始後に発生した費用については免除されません。
敷金や修繕費、原状回復費、滞納家賃のうち、どれが免除されて支払い不要になるのか、逆にどれは負担しなければならないのか、よくわからないまま対応すると損をしてしまうこともあります。
この記事では、自己破産した場合の退去費用の扱いについてわかりやすく説明します。免除される範囲、大家さんや管理会社から高額な退去費用を請求されたときの対処法、そして自己破産後も今の家に住み続ける方法など、気になるポイントについても解説していきます。
この記事を読むことで、退去費用の不安を減らし、安心して自己破産や引っ越しの判断ができるようになります。ぜひ最後までご覧ください。
自己破産で退去費用は免責される?時期別で見る支払い義務
自己破産を正しく理解することは、退去費用がどう扱われるかを判断するうえでとても重要です。この章では、まず自己破産の基本的な仕組みを押さえたうえで、退去費用とは具体的に何を指すのかについて解説していきます。
自己破産とは
自己破産とは、支払いが困難な借金を帳消しにするための法的な制度です。裁判所に申立てを行い、最終的に「免責許可決定」が出されることで、原則としてすべての借金を支払う義務がなくなります。
この制度の目的は、生活が破綻してしまった人が、再出発できるようにサポートすることにあります。破産手続きが開始された時点で、借金の返済や債権者からの取り立てはストップします。
ただし、すべての支払い義務が免除されるわけではなく、「税金」「罰金」「養育費」など、一部の債務は免責の対象外とされています。
退去費用も借金にあたるため、自己破産をすれば支払いが免除されるのが原則です。
退去費用とは
退去費用とは、賃貸住宅を退去する際に必要となる、原状回復費や未払い金の清算などを指します。
具体的には、次のような費用が該当します。
- 原状回復費:部屋を借りたときの状態に戻すための修繕費やクリーニング費
- 滞納家賃:退去するまでに支払いが遅れていた家賃
- 光熱費の未払い分:電気・ガス・水道などの使用料で退去時までに未払いのもの
- 契約違反に伴う損害金や違約金:契約期間内の退去や無断退去による賠償請求など
- 鍵の交換費用やハウスクリーニング代:契約書で借主負担とされているケースが多い
これらのうち、どの費用が自己破産で免除されるのかは、破産手続きの進行状況や債務の発生時期によって変わります。また、契約書の内容や貸主(大家)の請求方法によっても異なるため、個別の確認が欠かせません。
特に、原状回復費はトラブルが起きやすく、「本当に払う必要があるのか?」と悩む人も多いです。そのため、退去費用の正確な内訳を理解し、どの部分が免責の対象になるのかを見極めることが重要です。
自己破産すると家賃や退去費用はどうなる?
自己破産によって、退去費用や滞納している家賃の支払いが免除されるかどうかは、「いつ発生したか」が大きなポイントになります。
破産手続き開始前の退去費用は支払いが免除になる
破産手続き開始前に発生した退去費用や家賃の滞納分は、原則として免責の対象になります。
自己破産では、「免責許可決定」が下りると、それ以前の借金や債務については支払いの義務がなくなります。退去費用についても、「退去時に請求された原状回復費」「未払いの家賃」「契約違反による違約金」などが手続き前に発生していた場合には、ほかの借金と同じように免責の対象となる可能性が高いです。
ただし、免責の対象となるためには、手続き開始前に退去費用が明確な金額として請求されている必要があります。金額があいまいな状態であったり、まだ発生していない将来的な費用であれば、破産手続き後に「新たに発生した債務」と判断され、免責の対象外になることもあります。
そのため、退去費用がいつ、どのような形で発生したかを正確に把握しておくことが重要です。
退去日や請求書の発行日などを確認し、破産手続きとの時系列関係を明確にしておきましょう。判断が難しい場合には、自己判断せず、弁護士に相談して対応方針を確認することをおすすめします。
破産手続き開始後に発生した退去費用は免除されない
一方で、破産手続き開始決定後に発生した退去費用については、免責の対象になりません。区切りを決めないといつまでの借金をゼロにすればいいかが不明瞭になり、自己破産の制度そのものが成り立たなくなってしまうからです。
破産手続きが始まったあとも、日常生活に関する支出や契約は続いていきます。手続き開始後に新たに発生した債務については、「自分の責任で支払うべきもの」として扱われます。
たとえば、以下のようなケースでは、自己破産をしても退去費用の支払い義務が残ります。
- ・破産手続き開始後も住み続け、追加で家賃が発生した
- ・破産手続き開始後に修繕費やクリーニング費を請求された
- ・無断で退去し、破産手続き開始後に違約金を請求された
支払いを放置すると、少額訴訟を起こされ財産を差し押さえられる可能性もあります。
重要なのは、破産手続きの「開始日」を基準に、どの債務が免責対象なのかを明確に分けることです。支払いの判断に迷った場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
その他の費用は自己破産でどうなる?
自己破産の手続きでは、家賃や退去費用以外にも、さまざまな費用が問題になります。敷金、光熱費、違約金など、どれが免責の対象になり、どれが対象外となるのかは複雑で誤解も多いため、個別に確認しておくことが重要です。
敷金・礼金
敷金は、退去時の未払い家賃や原状回復費用に充てる目的で、契約時に貸主へ預けるお金です。退去後に未払いなどがなければ、敷金の全額または一部が返金されるのが一般的です。
敷金は借主が一時的に「預けているお金」とされるため、自己破産しても敷金自体が没収されるわけではありません。
ただし、退去時に未払いの家賃や修繕費がある場合は、それらの費用が敷金から差し引かれる形で返金されます。さらに、敷金の返還を受ける権利は「財産」として扱われるため、破産管財人が選任される管財事件の場合には、返還される敷金が破産財団に組み入れられることもあります。
一方で、礼金は貸主に対する謝礼として支払うものであり、契約締結時点で取引が完了した費用です。自己破産をしても基本的に返金されることはなく、自己破産手続きで改めて考慮されることもありません。
水道・光熱費
水道代や電気・ガス料金といった光熱費も、破産手続き開始前に発生した未払い分であれば、原則として免責の対象となります。たとえば、電気代を滞納している状態で自己破産を申し立てた場合、原則としてその支払いは免除されます。
ただし、水道代には注意点があります。上水道料金(給水分)は免責されますが、下水道料金(汚水処理費など)は対象外とされる場合が多いため、明細を確認することが大切です。
なお、支払いを滞納したからといって、破産手続き中に突然電気や水道が止まることはありません。光熱費は生活に必要な最低限のインフラと位置づけられており、破産手続き中の利用停止は、破産法で原則禁止されているからです。
一方で、手続き開始後に発生する光熱費は免責の対象外です。以後の利用分を滞納すれば、通常どおり供給が止められることがあります。
継続して利用するには、電力会社や水道局に破産手続き中であることを伝え、今後の支払い方法について相談しておくと安心です。弁護士が代理人になっている場合は、連絡を代行してもらうこともできます。
管理費・共益費
管理費や共益費は、アパートやマンションなどの共用部分の維持や各種サービス提供にかかる費用のことです。たとえば、エレベーターの保守点検費用や清掃費用、共用灯の電気代、防犯設備の維持費などがこれに含まれます。
毎月の家賃とは別に請求されることが多く、契約書にも「管理費○円」「共益費○円」といった形で明記されています。
破産手続き開始前に発生していた管理費・共益費の未払い分については、ほかの借金と同様に免責されます。
一方で、破産手続き開始後に発生した管理費・共益費については免責されません。 破産手続きが始まった後もその物件に住み続けている限り、共用部分の維持管理の恩恵を受けていると判断されるため、その分の費用は自分で支払う必要があります。
管理費や共益費の滞納が長引くと、管理会社や大家とのトラブルに発展することもあります。物件によっては、支払いを怠ることで契約解除の対象になったり、強制退去を求められたりするリスクもあります。
支払い義務の発生時期を確認したうえで、支払いが必要な分については早めに対応することが大切です。
違約金
賃貸契約書に「●年未満の解約時は違約金が発生する」などの記載がある場合、違約金は契約に基づく損害賠償請求権として扱われることが多く、破産手続き前であれば免責の対象となります。
たとえば、2年契約の物件に1年しか住まずに自己都合で退去した場合、1ヵ月分の違約金を請求されることがあります。この違約金の請求が破産手続き前に届いた場合、自己破産によって支払い義務は原則として免除されます。
ただし、違約金の請求が破産手続き開始後に行われた場合や、悪質な契約違反(例:無断退去、設備破損)などによる損害賠償請求の場合には、免責対象外と判断されることもあるため、個別の確認が必要です。
自己破産で本当に賃貸を追い出される?
「自己破産をすると賃貸している家から強制的に追い出されるのではないか」と心配する人も多いです。
結論から言えば、自己破産そのものが直接の退去理由になることはありません。ただし、家賃の滞納や賃貸契約の違反がある場合は、退去を求められる可能性が高まります。
ここでは、自己破産が賃貸契約に与える影響や、追い出されるケースについてくわしく解説します。
家賃を滞納していなければ追い出されない
自己破産しただけで、現在住んでいる賃貸物件から退去を求められることは基本的にありません。家賃の支払いが継続されていれば、貸主側も契約を解除する正当な理由がないためです。
また、退去費用などの滞納がない場合には、そもそも貸主が自己破産の事実を知ることはできません。裁判所からの通知は債権者にのみされ、大家に直接連絡がいくことはないからです。
破産手続き後も生活を安定させるためには、家賃の支払いを優先し、継続的な信頼関係を築くことが大切です。
家賃を滞納していると追い出されることも
一方で、家賃の滞納がある場合は、契約解除や退去を求められるリスクが非常に高くなります。家賃滞納は賃貸契約の重大な違反にあたり、大家さんや管理会社は法的措置を取る権利を持ちます。
自己破産によって免責されるのは「破産手続き開始前に発生した家賃滞納分」のみです。「破産手続きが始まったあとに発生する家賃」は免責されず、滞納が続けば賃貸契約解除の正当な理由となります。
さらに、破産後に家賃を支払わずに放置すれば、裁判所の強制執行を利用した明け渡し請求が行われ、強制退去が現実的な問題になります。
家賃滞納は債権者である大家さんの生活にも直接影響を及ぼすため、退去請求が認められやすいのです。
強制退去のリスクが高まる3つのケース
自己破産をしても、以下の3つのケースでは賃貸契約の解除や退去を求められるリスクが高まります。
【破産手続き開始後も家賃を支払わない場合】
破産後の家賃は免責の対象にならないため、滞納すると契約解除の理由になります。特に3ヵ月以上の滞納が続くと、裁判所が賃貸契約の信頼関係が破綻したと判断しやすくなり、退去リスクが高まります。1ヵ月程度の滞納では追い出される可能性は低いものの、長期滞納は注意が必要です。
【無断退去や放置状態の場合】
契約の無断解除や連絡なしの退去は賃貸契約違反となり、大家さんからの退去請求が認められやすくなります。長期間連絡がなく放置された状態も同様です。
【過度な家賃負担だと判断された場合】
さらに、破産管財人が家賃負担を過度と判断した場合、生活再建の観点から賃貸契約解除が検討されることがあります。具体的には、家賃が手取り収入の3分の1を超える場合が目安とされます。
破産手続きの目的は再出発の支援なので、家賃負担が重すぎると契約継続が難しくなることも理解しておきましょう。
なお、旧民法では自己破産を理由に賃貸契約を解除できましたが、現在は自己破産のみを理由にして契約解除はできません。信頼関係が維持されているかどうかが解除の判断基準となるため、家賃滞納や契約違反が退去リスクを左右します。
免責後の支払いは保証会社や連帯保証人が行う
賃貸借契約では、多くの場合、保証会社や連帯保証人がつくことが条件となっています。自己破産で本人の支払い義務が免除されても、破産者本人が支払えなかった家賃や退去費用は、保証会社や連帯保証人が代わりに支払うことになります。
通常、連帯保証人には求償権(本人の代わりに支払った分を本人に返してもらう権利)がありますが、自己破産の場合、この求償権は行使できません。つまり、連帯保証人が代わりに支払っても、その分を本人から回収できないのが原則です。
とはいえ、破産後でも本人の意思で連帯保証人に返済することは可能です。自己破産をする際には、連帯保証人と事前に話し合い、今後の返済計画について相談しておくことが望ましいでしょう。こうした準備が、トラブルを避けるポイントとなります。
自己破産前に退去費用を請求されたときの注意点
退去費用の請求を受けたら、まず請求内容をしっかり確認しましょう。原状回復費やクリーニング代、修繕費、未払いの家賃など、何にいくら請求されているかを明確に把握することが大切です。請求明細や賃貸契約書の内容を照らし合わせて、請求が妥当かどうか冷静に判断してください。
自己破産を申し立てる前に退去費用を支払う際は特に注意が必要です。なぜなら、特定の債権者にだけ支払いをする「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と見なされる恐れがあるためです。偏頗弁済は法律で禁止されており、免責が認められなくなるリスクがあります。
そのため、退去費用の支払いについては、必ず弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、支払うべきか、交渉すべきかを正しく判断でき、トラブルを避けやすくなります。
もし請求内容に不明点や過剰な請求があれば、管理会社や大家に説明を求めましょう。正当な範囲を超えた請求には応じる必要はありません。
また、破産手続きが開始されると、管財事件に該当する場合には破産管財人が選任され、退去費用を含む債務の内容を調査し、免責の可否を判断します。同時廃止の場合は、裁判所が提出書類をもとに免責の可否を判断します。いずれにしても、自己破産の申し立ては遅らせず、早めに進めることがスムーズな解決につながります。
自己破産したのに退去費用を請求された場合の対処法
自己破産をしたにもかかわらず、高額な退去費用を請求されるケースがあります。このような状況に直面した場合、冷静に請求の内容や法的根拠を確認し、適切に対応することが大切です。
ここでは、免責対象の見極め方や請求内容の妥当性のチェック方法、交渉のポイント、そして専門家に相談するタイミングなど、トラブルを避けるための具体的な対処法をくわしく解説します。
請求された退去費用が免責対象か確認する
退去費用が自己破産の免責対象になるかどうかを見極めることは非常に大切です。基本的に破産手続き開始前に発生した費用は免責の対象となり、開始後に発生した費用は自己負担となります。
たとえば、退去時の原状回復費や未払い家賃、違約金などを手続き開始前に請求されていれば、免責となる可能性が高いです。ただし、費用発生の時期や請求内容があいまいな場合は判断が難しくなります。
そのため、請求書の発行日や退去日、契約内容をしっかり確認し、費用の発生時期を明確にしておくことが必要です。疑問がある場合は、専門家に相談して正確な判断を仰ぐと安心です。
請求内容と金額の妥当性をチェックする
請求内容が正当かどうかを判断するためには、請求書の明細と賃貸契約書の条項を照らし合わせることが欠かせません。原状回復費用やハウスクリーニング代、修繕費などの内訳が適切かどうか、相場や一般的な基準と比べて過剰請求ではないかを確認しましょう。
また、管理会社や大家が請求する費用の中には、実際には不要な修繕や過剰な請求が含まれているケースもあります。たとえば、経年劣化にかかる費用は借主ではなく貸主負担となるため、請求された場合は支払いを拒否しましょう。
請求内容に不明点や納得できない部分があれば、文書で説明を求めるとともに、写真や修繕見積もりを請求するなど証拠を集めることも有効です。証拠をそろえることで、後の交渉や法的手続きで有利に進められます。
管理会社やオーナーと交渉する
請求内容に疑問がある場合は、管理会社や大家との話し合いによる交渉を検討しましょう。直接連絡し、誠実に話し合うことで、請求額の減額や分割払いの合意を得られる可能性があります。
交渉の際は、感情的にならずに冷静かつ丁寧に対応することが大切です。法律上の権利や契約書の条項を踏まえて、自分の立場を説明しましょう。時には第三者を介した話し合いが効果的になることもあります。
ただし、交渉が難航する場合や不当な請求が続く場合は、無理に一人で対処せず、早めに専門家へ相談することが重要です。
免責された退去費用を請求されたら速やかに専門家に相談を
自己破産によって退去費用が免責されているにもかかわらず、大家さんや管理会社などから不当な請求が続くケースがあります。そのような場合は、放置せずに速やかに専門家に相談することが非常に重要です。
免責決定は裁判所が法的に認めたものであり、免責対象の債務について支払いをする義務はありません。しかし、大家さん側も費用を負担する立場になることがあるため、感情的になって支払いを求めてくることもあるのが現実です。
弁護士などの専門家は、請求の内容が本当に免責対象外か、あるいは不当請求かを法的に判断し、必要であれば請求の取り下げ交渉や支払い拒否の手続きを代行してくれます。これにより、法的トラブルに発展する前に問題を解決しやすくなります。
また、精神的なストレスや不安を軽減するうえでも、専門家のサポートは大きな助けになります。さらに、早期に専門家へ相談することで、誤解や不当な請求に対して迅速に対応でき、無用な金銭的負担を回避できます。
免責されている退去費用の支払いに関するトラブルは、一人で抱え込まず、速やかに専門家に相談して状況を整理することがトラブル解決への近道です。困ったときは、迷わずに専門家の力を借りましょう。
自己破産後も今の家に住み続けるには?
自己破産をしたあとも、現在の賃貸物件に住み続けたいと考える方は多いでしょう。
自己破産は借金の返済義務を免除する手続きですが、賃貸借契約自体が自動的に解除されるわけではありません。そのため、住み続けるためには家賃の支払い方法や管理会社、大家との関係性をどう保つかが重要になります。
ここでは、家賃の滞納がある場合でも、 自己破産後に家に住み続けるための方法を3つ紹介します。
滞納している家賃を別の人に支払ってもらう
自己破産後も今の家に住み続けたい場合、滞納している家賃を第三者に支払ってもらうという方法があります。これは「第三者弁済」と呼ばれ、破産手続きにおいても有効な手段です。
滞納している家賃を本人が支払うと、ほかの債権者よりも特定の相手を優遇したと判断される可能性があります。偏頗弁済は破産法上のルール違反とされ、最悪の場合、免責が認められなくなるおそれがあります。
しかし、支払いを行うのが本人ではなく第三者であれば、偏頗弁済には該当しません。別居している親族・友人などの援助を受けられるのであれば、それを頼りにするにもよいでしょう。
ただし、代わりに支払いをしてもらう場合には、同居している家族以外に支払ってもらうことが重要になります。同居人が支払った場合、生計を一にしていると見なされ、「実質的には本人の支払い」と判断されるリスクがあります
自己破産を進めながら現在の住まいを維持したい場合には、こうした第三者の協力をうまく活用することが現実的な解決策となります。トラブルを避けるためにも、支払いの事実を証明できる振込記録や領収書などを残しておくとよいでしょう。
自己破産後に滞納分の家賃を支払う
破産手続きが完了し、免責が確定した後に、自分の意思で滞納していた家賃を支払うという選択肢もあります。免責によって法律上の支払い義務はなくなっていますが、あくまで「任意の返済」として行うことは可能です。
このような任意の支払いを行うことで、大家さんとの信頼関係を回復し、契約継続につなげることができる場合もあります。とくに今後も長く住み続けたいと考えている場合には、有効な対応策といえるでしょう。
ただし、返済したからといって退去を免れる保証があるわけではないため、支払い前には今後の住居方針も含めてよく検討することが重要です。
弁護士に確認しながら滞納分を支払う
自己破産をしても今の住まいに住み続けたいと考えるなら、弁護士に相談のうえで滞納している家賃を支払うという方法もあります。
原則として、破産手続きの直前に特定の債権者だけに返済を行うことは、法律上禁止されています。偏頗弁済と見なされた場合、免責が認められなくなるリスクがあります。しかし実際には、すべての偏頗弁済が直ちに破産手続きに支障をきたすわけではありません。
家賃の滞納を放置すれば退去を求められるおそれがあり、生活の基盤そのものが失われかねません。そうした切迫した事情がある中で、住宅を確保するために家賃のみを支払った場合、裁判所がその背景を考慮し免責を認める「裁量免責」という判断を下す可能性があります。
裁判所は、破産者の経済状況や支払い理由などを総合的に見て免責の許可・不許可を判断します。生活再建のためにやむを得ず行った支払いであると説明できれば、偏頗弁済にあたる場合でも免責が認められるケースは多いです。
ただし、偏頗弁済にあたる場合には免責が認められないのが原則です。滞納している家賃を支払う場合には、必ず弁護士に助言を求めたうえで行うようにしましょう。
自己破産後の引っ越しで注意すべきポイント
自己破産をしたあとでも、新たに賃貸物件を借りて引っ越すことは可能です。しかし、以前よりも入居のハードルが上がるため、スムーズに引越しを終えるために、以下のポイントに注意しておきましょう。
入居審査が厳しくなる傾向にある
自己破産をした情報は信用情報機関に登録され、一般的に5~7年間は事故情報として残ります。賃貸物件の入居審査では保証会社が信用情報を確認するため、自己破産歴がある場合は審査に通りにくくなる傾向があります。
とくに、物件の保証会社が信販系(クレジットカード会社や消費者金融など)の場合は注意が必要です。これらの保証会社は信用情報を厳しくチェックし、過去に借金の返済ができなかった履歴があると、家賃を継続して支払えるか不安視されて審査に落ちる可能性が高まります。
こうした状況を踏まえ、自己破産後の物件選びでは以下のポイントを意識するとよいでしょう。
- 信販系以外の保証会社が利用されている物件を検討する
- 保証会社を通さずに入居できる賃貸を探す
- 保証会社の代わりに連帯保証人を立てる必要がある物件を選択肢に入れる
また、不動産仲介業者を通じて物件を探す際には、自己破産歴や現在の支払い能力に問題がないことを正直に伝えると、審査に通りやすい物件を紹介してもらいやすくなります。
さらに、公的なUR賃貸や公営住宅の利用も、比較的審査が緩やかな選択肢として検討に値します。
クレジットカードでの家賃の支払いが困難になる
近年では、家賃の支払い方法としてクレジットカード決済に対応する物件も増えてきました。大手の賃貸管理会社や保証会社経由の決済では、クレカ払いが選べるケースもあります。
しかし、すべての物件が対応しているわけではなく、地域の不動産業者や個人オーナー物件では、依然として口座振替や振込による支払いが主流です。
自己破産をするとクレジットカードが使えなくなるため、今後も賃貸物件に住み続ける、あるいは新たに物件を借りる際には、「クレカ以外の家賃支払い手段があるか」も確認しておくことが大切です。
新たに賃貸契約を結ぶ際には、銀行口座からの直接引き落としに対応しているか、デビットカードなど他の支払い手段が利用可能かを事前に確認しましょう。
クレジットカードが使えない場合、支払い方法の選択肢が限られます。トラブルを避けるためにも契約時にしっかり確認することが重要です。
自己破産と退去費用に関してよくある質問(Q&A)
まとめ 自己破産の退去費用で揉めたら弁護士に相談を
自己破産をすると、賃貸の退去費用や家賃滞納分の支払いについて免責されるケースがあります。ただし、免責対象となるのは破産手続き開始前に発生した費用に限られ、手続き開始後に生じた費用については免責されません。
また、自己破産によって賃貸物件から強制的に退去させられるわけではありませんが、家賃滞納があると契約解除や退去を求められる可能性が高まります。自己破産後も今の住まいに住み続ける方法や、引っ越し時の入居審査の厳しさ、クレジットカードでの家賃支払いが困難になることも理解しておきましょう。
退去費用の請求や家賃滞納でトラブルが発生した場合は、専門的な法律知識が必要となります。自己破産の手続きや退去費用に関する疑問やトラブルを解決するには、早めに弁護士に相談することがもっとも安心で確実な方法です。弁護士のサポートを得ることで、トラブルを避けつつ、精神的な負担も軽減できます。
自己破産と賃貸トラブルの問題はひとりで抱え込まず、専門家に相談しながら前向きに進めていきましょう。